【2024.2】事業承継・引継ぎ補助金の「専門家活用事業」とは?特有の要件まで徹底解説!

事業承継・引継ぎ補助金 専門家経費

M&Aによる企業の事業編成や事業統合など、事業承継にかかる経費を補助する制度として事業承継引継ぎ補助金の専門家活用事業が利用できます。中小企業庁が事業承継者・被承継者ともに安心してM&Aを活用できるよう基盤構築がなされている制度内容です。この記事では、特有の要件も含め専門家活用事業を徹底解説します。

この記事の目次

事業承継・引継ぎ補助金とは?

事業承継引継ぎ補助金は、国が中小企業等の事業承継やM&Aを促進するために「事業承継や引継ぎ、M&Aによる事業統合に関する取り組み」にかかる費用を補助する制度です。
そもそも後継者不在など事業承継自体が難しいという課題を抱える企業もあり、その場合はM&Aによる第三者での事業承継といった解決方法もあります。
事業承継引継ぎ補助金は、事業承継・再編・統合にかかる費用の一部を補助し、その後の経営革新や新事業を支援する制度であり、創業された事業により日本経済の活性化を促す目的のものです。法人だけでなく個人も補助対象になっており、補助金の採択率は高い傾向にあります。

事業承継・引継ぎ補助金とは?

中小企業のM&Aや事業承継等を支援する補助金

中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助⾦(以下事業承継引継ぎ補助金)は、中⼩企業者及び個⼈事業主を対象としています。支援の対象は事業承継、事業再編、事業統合です。事業の引継ぎ後の設備投資やM&Aにかかった経費の一部が補助金の対象になります。
事業承継引継ぎ補助金は、事業承継にかかる費用負担の軽減や承継後の事業持続の投資を促進し、経済の活性化を図ることを⽬的とする補助⾦です。また事業転換を行う際に発生する、廃業登記費や在庫処分費などの廃業費の支払いにも本補助金が充当可能です。
事業承継引継ぎ補助金を利用するメリットには、給付された補助金は返済不要という点と採択率が高いという点があります。よって申請には審査があり競争率も高いですが、対象経費も幅広く活用しやすい補助金制度です。

事業承継のタイプによって3つの部門に分かれる

事業承継引継ぎ補助金は、中小企業や個人事業主といった小規模事業者の事業承継やM&Aを支援する補助金制度です。事業承継のタイプによって次の3つの部門に分かれています。

  1. 経営革新事業
  2. 専門家活用事業
  3. 廃業・再チャレンジ事業

事業承継引継ぎ補助金は、各公募回や申請する枠で採択率は変わります。

1、経営革新事業は、事業承継やM&A後に設備投資や販路開拓などで事業を引き継いだ事業者が、新たに経営革新にチャレンジすることが対象条件です。【創業支援型(Ⅰ型)、経営者交代型(Ⅱ型)、M&A型(Ⅲ型)】と3つの型から選択できます。
経営革新事業は、店舗等の借入費、マーケティング調査費、広報費、外注費、設備費や原材料費などが補助対象になります。事業承継引継ぎ補助金は、似たような補助金制度(ものづくり補助金)に比べ、補助対象経費が幅広いのが特徴です。
2、専門家活用事業は、M&Aの時にかかる費用を補助するものです。【買い手支援型(Ⅰ型)、売り手支援型(Ⅱ型)】と2つの型があり、M&Aを行う会社の売り手側、買い手側どちらの企業も補助対象になります。
M&Aを行う上での委託費(仲介者への着手金や成功報酬も含む)やM&Aマッチングサイトのシステム利用料、デュー・ディリジェンスの費用、保険料や謝金などが補助対象経費です。
また、補助金の申請に際して、経営革新事業と専門家活用事業に同時に申請することは可能です。
3、廃業・再チャレンジ事業は、既存事業を事業承継や再編成、M&Aによって廃業し新しい事業を始める事業者が対象です。廃業・再チャレンジ事業は【併用申請型・再チャレンジ型】の2つに分けられています。M&Aを行ったものの、事業を譲り渡せなかった場合や事業承継時に一部事業を廃業するにあたってかかる廃業登記費、在庫処分費、解体費を補助してくれます。補助上限金額は150万円です。
参考:事業承継・引継ぎ補助金 HP

事業承継・引継ぎ補助金の補助額・補助率は?

では事業承継引継ぎ補助金の補助上限額と補助率を3つの類型にまとめてみていきます。

類型補助上限額補助率
経営革新事業600万円(賃上げの要件を満たすと800万円)2/3
600万円~800万円1/2
専門家活用事業600万円1/2・2/3
廃業・再チャレンジ事業150万円1/2・2/3

第7次公募では上記の3事業が設定されており、条件によって金額の変動が発生しますので、詳細は共通のパンフレットで確認しましょう。
参照:事業承継引継ぎ補助金 7次公募パンフレット

事業承継・引継ぎ補助金の採択率

事業承継引継ぎ補助金の採択率は概ね60%の水準です。
事業承継引継ぎ補助金の公式HPに各公募回の3事業ごとの採択結果が公開されています。公開情報を基に採択率を以下にまとめました。
<事業承継引継ぎ補助金 6次公募 採択結果>

事業申請件数採択件数採択率
経営革新事業357件218件61.1%
専門家活用事業468件282件60.2%
廃業・再チャレンジ事業1件の単独申請と36件の併用申請23件62.2%


<事業承継引継ぎ補助金 5次公募 採択結果>

事業申請件数採択件数採択率
経営革新事業309件186件60.1%
専門家活用事業453件275件60.7%
廃業・再チャレンジ事業0件の単独申請と37件の併用申請17件45.9%

参考:事業承継引継ぎ補助金公式HP 採択結果
各公募毎で多少の違いはあるものの、直近の公募では申請者の約6割の採択率となっています。ものづくり補助金や事業再構築補助金、IT導入補助金など他の中小企業が利用できる補助金制度の採択率は4割〜6割強なので、比較的事業承継引継ぎ補助金の採択率は高いといえます。

「専門家活用事業」は更に二つの類型に分かれる

事業承継引継ぎ補助金の専門家活用事業は、後継者不在やM&Aを検討している中小企業者が経営資源の引継ぎによって事業が存続することで、地域の需要や雇用の維持・創造等を通じた経済の活性化を図ることを目的とした支援制度です。
専門家活用事業では、経営資源の引継ぎ(M&A)の際に発生する専門家への支払い経費が主に補助対象になります。
専門家活用事業では、経営資源引継ぎの立場によって、「買い手支援型(Ⅰ型)」、 「売り手支援型(Ⅱ型)」の二つの類型にわかれます。これから経営資源を他社から譲り受けようとしている事業者(買い手)やM&Aによって他者に譲り渡す事業者(売り手)という立場です。

「専門家活用事業」は更に二つの類型に分かれる

「専門家活用事業」では経営資源の引継ぎ自体が支援される

そもそもM&A(エムアンドエー)とは『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略です。企業の合併・買収だけでなく、提携までをM&Aに含める場合もあります。後継者不在や事業承継問題の解決に有効なM&Aですが、難色を示す事業者も中にはいます。
中小企業庁は問題の解決を図るため、事業承継引継ぎ補助金の専門家活用事業において、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するため「M&A支援機関に係る登録制度」を創設しました。
「M&A支援機関に係る登録制度」とは、中小企業庁によって創設された、中小企業に向けた M&A支援業務を行う事業者の登録制度で、M&A専門業者、銀行や証券会社等の金融機関、商工団体、税理士や公認会計士、社会保険労務士などの士業専門家などがM&A支援機関です。
ですので、専門家活用事業の活用によってM&Aのための事業承継相手を探したり、紹介したりする仲介業者やファイナンシャルアドバイザー、金融機関、会計士や中小企業診断士などの専門家にかかる委託費や謝金が補助されるということになります。
補助対象となる経費の区分としては、以下の経費があげられます。

  • 委託費*1
  • 謝金
  • 旅費
  • 外注費
  • システム利用料
  • 保険料
    *1・・・FA・仲介業務に係る委託費 用は、M&A登録専門家への 支払のみ補助対象

参考:事業承継引継ぎ補助金 7次公募パンフレット
参考:M&A支援機関登録制度

I型 : 買い手支援型

事業承継引継ぎ補助金の専門家活用事業を申請するための、買い手支援型の類型の対象者は、事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等の事業者です。
専門家活用事業の買い手支援型を活用した事例としては、売上高50億円以上の卸売会社が株式譲渡によって経営資源の引継ぎを行い、委託費(第三者への委託費用 事業承継仲介業務)に補助金を活用したという例があります。

II型 : 売り手支援型

続いて、事業承継引継ぎ補助金の専門家活用事業を申請するための、売り手支援型の類型の対象者は、事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等の事業者です。
専門家活用事業の売り手支援型を活用した事例としては、売上高5億~10億円の調剤薬局の運営業の会社が事業譲渡によって経営資源の譲り渡しを行い、委託費(仲介とのアドバイザリー契約に基づき支払う成功報酬)に補助金を充てた例があります。

参考:事業承継引継ぎ補助金 専門家活用事業7次公募要領

「専門家活用事業」特有の要件① 経営資源引継ぎ要件

専門家活用事業には特有要件があり、公募回ごとに内容が少しずつ変更になっている場合があります。まずは公募要領に記載されている経営資源引き継ぎ要件をみていきましょう。

「専門家活用事業」特有の要件① 経営資源引継ぎ要件

補助事業期間中に事業再編・事業統合が行われることが必要

事業承継引継ぎ補助金の専門家活用事業を利用して、経営資源の引継ぎや譲り渡しを行う際は、補助事業期間中に経営資源の買い手側・売り手側で事業再編・事業統合が着手もしくは実施される予定であることが補助対象の要件です。
また、経営資源の承継者と被承継者の間で実質的に事業再編・事業統合が行われていない物品・不動産の売買やグループ内の事業再編及び親族内の事業承継等は専門家活用事業の補助対象外となります。

引継ぎの形態に応じてより細かいルールがある

専門家活用事業を活用するには、経営資源の引継ぎの形態ごとの細かいルールもクリアせねばなりません。専門家活用事業の補助対象事業となる経営資源引継ぎの形態とルールは、専門家活用事業の「公募要領6.2 経営資源引継ぎ形態に係る区分整理」に詳細が細かく記載されていますので必ずチェックしましょう。
参考:事業承継引継ぎ補助金 専門家活用事業7次公募要領

「専門家活用事業」特有の要件② 補助事業要件

続いて、専門家活用事業の要件の二つ目は、補助事業に関する要件です。上記に示した経営資源引継ぎの要件に該当し、加えて以下の要件を満たした事業者が補助対象になります。

専門家活用事業」特有の要件② 補助事業要件

買い手支援型で申請する場合

専門家活用事業の買い手支援型で申請を行う場合には、次の2点を満たす必要があります。

  1. 事業再編・事業統合に伴い経営資源を譲り受けた後に、シナジーを活かした経営革新等を 行うことが見込まれること。
  2.  事業再編・事業統合に伴い経営資源を譲り受けた後に、地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれること。

売り手支援型で申請する場合

次に専門家活用事業の売り手支援型で申請を行う場合は、次の点を満たすことが必要です。

  • 地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業等を行っており、事業再編・事業統合により、これらが第三者により継続されることが見込まれること。 

参考:事業承継引継ぎ補助金 専門家活用事業7次公募要領
また申請において、同一の経営資源引継ぎにおいて、買い手支援型(Ⅰ型)と売り手支援型(Ⅱ型) から、それぞれ1申請を行うことができます。
さらに、売り手支援型には共同申請という制度があります。売り手支援型(Ⅱ型)において、株式譲渡によって経営資源の引継ぎを行う場合、支配株主や株主代表が交付申請を行う場合は、対象会社と株主との共同で申請ができます。 共同申請を実施しない場合、株主 の負担した経費は補助対象とならないので注意しましょう。

まとめ

事業承継引継ぎ補助金の専門家活用事業の活用は、経営資源の買い手側、売り手側の双方に恩恵があります。後継者不足など事業承継が難しい課題を抱える事業者にとって、M&Aにかかる委託費やシステム利用料の補助は事業の承継を後押ししてくれる制度となっています。有効活用し、事業承継後の経営革新事業に備えましょう。

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