新規事業を行う際に便利な事業再構築補助金ですが、補助金が交付決定される前に支出した経費は補助対象経費にすることができません。そんな時に便利だったのが事前着手申請という制度です。事前着手申請を行うことで、交付決定前に支出された経費も補助対象経費にすることができました。
しかし、現在募集されている第12回事業再構築補助金では、事前着手申請が原則廃止されました。
本記事では、事業再構築補助金の概要や事前着手申請に関する変更、最新情報について詳しく解説します。
この記事の目次
事業再構築補助金の事前着手申請について解説する前に、事業再構築補助金の概要について解説します。
事業再構築補助金とは、コロナ禍で打撃を受けた事業者やこれからポストコロナに向けて事業を新たに始めたい事業者等に対して支援をしてくれる補助金制度です。新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、又は事業再編に踏み切る事業者を応援してくれます。
事業再構築補助金を活用するには審査に通過し、採択される必要があります。申請時は詳細な事業計画書等の提出が必要で、審査は厳格に行われます。そのため、誰でも活用できる補助金というわけではありません。
対象者は中小企業や中堅企業で、個人事業主も含まれます。その他申請枠別に必須要件があるため、自社が申請できる枠をしっかり選ぶ必要があります。
事業再構築補助金で受け取ることができる金額は、従業員数や会社の種類、申請枠別に異なります。以下はそれぞれの申請枠で受け取ることができる上限金額です。
成長分野進出枠(通常類型)
従業員数 | 補助上限金額 ※()内は短期に大規模な賃上げを行う場合の金額 | 補助率 ※()内は短期に大規模な賃上げを行う場合の補助率 |
20人以下 | 1,500万円(2,000万円) | 中小企業:1/2 (2/3) 中堅企業:1/3 (1/2) |
21~50人 | 3,000万円(4,000万円) |
51~100人 | 4,000万円(5,000万円) |
101人以上 | 6,000万円(7,000万円) |
参照:事業再構築補助金 必須申請要件
成長分野進出枠(GX進出類型)
企業の種類 | 従業員数 | 補助上限金額 ※()内は短期に大規模な賃上げを行う場合の金額 | 補助率 ※()内は短期に大規模な賃上げを行う場合の補助率 |
中小企業 | 20人以下 | 3,000万円(4,000万円) | 1/2 (2/3) |
21~50人 | 5,000万円(6,000万円) |
51~100人 | 7,000万円(8,000万円) |
101人以上 | 8,000万円(1億円) |
中堅企業 | – | 1億円(1.5億円) | 1/3(1/2) |
参照:事業再構築補助金 必須申請要件
コロナ回復加速化枠(通常類型)
従業員数 | 補助上限金額
| 補助率 |
5人以下 | 1,000万円 | 中小企業:2/3 (従業員数5人以下の場合400万円、従業員数6~20人の場合600万円、従業員数21~50人の場合800万円、従業員数51人以上の場合は1,200万円までは 3/4)
中堅企業:1/2 (従業員数5人以下の場合400万円、従業員数6~20人の場合600万円、従業員数21~50人の場合800万円、従業員数51人以上の場合は1,200万円までは 2/3) |
6~20人 | 1,500万円 |
21人~50人 | 2,000万円 |
51人以上 | 3,000万円 |
参照:事業再構築補助金 必須申請要件
コロナ回復加速化枠(最低賃金類型)
従業員数 | 補助上限金額
| 補助率 |
5人以下 | 500万円 | 中小企業:3/4(一部 2/3) 中堅企業:2/3(一部 1/2)
※「コロナ借換保証等で既往債務を借り換えていること」という任意要件を満たさない場合、補助率は()内の数字になる |
6~20人 | 1,000万円 |
21人以上 | 1,500万円 |
参照:事業再構築補助金 必須申請要件
サプライチェーン強靱化枠
従業員数 | 補助上限金額
| 補助率 |
– | 5億円 (建物費がない場合は3億円) | 中小企業:1/2 中堅企業:1/3 |
参照:事業再構築補助金 必須申請要件
上記はあくまでも上限金額なので、補助金を何に使うかによって金額はさらに変動してきます。
事業再構築補助金に申請し、採択されてから補助金受け取りなどのおおまかな流れは以下のようになっています。
- 必要書類の準備や事業計画書の作成をする
- 補助金に申請する
- 採択通知が届く
- 交付申請をする
- 交付が正式に決定したら補助金額が決定する
- 補助事業実施期間
- 補助事業の実績報告をする
- 確定検査を受ける
- 補助金精算払請求書の提出をする
- 補助金を受け取る
このように、補助金を結局受け取ることができるのは補助事業等が完了した一番最後です。補助金を受け取ってから事業を行うわけではないため、しっかり流れを把握しておきましょう。
事業再構築補助金の事前着手申請とは、事業再構築補助金に採択、または交付決定される前に事業を始めたい方向けの制度です。
通常、事業再構築補助金は採択されて交付決定が行われてから補助事業実施期間に入ります。そのため、事業を早めに始めるのはNGです。交付決定前に事業を始めてしまうと、期間外に発生した経費等は補助対象外になってしまい、補助金を活用することができなくなってしまいます。
しかし、諸事情により早めに事業を開始させたい方向けに事前着手申請という制度が作られました。この申請を行うことで、採択や交付決定前に事業関連で発生した経費も補助対象にすることができるようになりました。
本制度は基本的には特例とされています。例えばコロナの関係や物価高で苦しんでいる事業者の支援には緊急性が求められるため、早く事業に着手したいという事業者もいるでしょう。そのような事業者を支援するための制度とされています。
ただし、事前着手申請が通った場合でもその後事業再構築補助金に採択されるかどうかはわからないので、その点には注意が必要です。事前に着手した際に発生した経費全てが補助対象と認められるかどうかもわからないので注意しましょう。
中小企業庁が公募を行っている他の持続化補助金やIT導入補助金、ものづくり補助金は事前着手申請等は設定されていないため、経費を遡って計上することができません。そのため、事前着手申請があるという点でも事業再構築補助金は人気のある補助金です。
事前着手申請について、第10回公募からは申請できる応募枠が限定されていました。そのように、だんだんと事前着手申請は使いずらい制度となっていったのですが、遂に第12回公募では原則廃止されることになりました。そのため、今後は交付決定後の事業実施期間に発生した経費のみが事業再構築補助金を活用することができます。
ただし、第10回、11回公募で事前着手申請を活用可能な枠に申請して不採択になってしまった事業者のうち、第12回公募でコロナ回復加速化枠またはサプライチェーン強靱化枠に再度申請する場合は事前着手申請を活用することができます。これから新たに事前着手申請を活用することはできないので注意しましょう。
先述したように、事前着手申請は第12回から原則廃止になってしまいました。しかし、第10回、11回公募ですでに事前着手申請を活用し、不採択になってしまった方の中で再度事業再構築補助金、事前着手申請を活用したいと考えている方もいるかもしれません。そのような方々のために、以下で事前着手申請の方法を解説します。
以下のように、指示に合わせて空欄を埋めていけば申請は簡単に行うことができます。
事前着手申請はjグランツに必要な情報の入力を進めていくことで申請を行います。そのため、事前着手申請にも事業再構築補助金の申請のようにGビズIDが必要になります。
なお、GビズIDのアカウント作成にはGビズI D事務局に書類を郵送する必要があります。アカウント有効化には郵送から最大1か月ほどかかるため、早めに作成しましょう。
事前着手申請の段階では事務局が指定した書類以外見積書、発注書、請求書等など提出が必要な書類はありません。しかし、実績報告を行う際には通常の補助対象経費と同様に上記の書類が必要になるので、事前に提出書類の記入例や書き方を確認し、発注先の事業者に見積書の作成など事前に話を通しておくと良いでしょう。
以下は事前着手申請を行う際の書き方、記入例を紹介します。
事前着手申請では、主に以下の内容を記載しなければいけません。
また、事前着手申請は具体的に発生する損失なども事業者で計算して根拠として示さなければいけません。そのため、書き方を把握し、ある程度事業計画を固めてから作成しなければ、計画との乖離が発生してしまいます。
以下では、事前着手申請の各項目の書き方をそれぞれ解説します。
事前着手申請では事業概要について記載する必要があります。今回の事前着手申請は緊急性の高いものに関して補助されるため、事前着手申請の書き方としては今行っている事業の概要とコロナウイルスによる影響または物価高に関しても追加で触れて良いでしょう。以下に記入例を記載します。
記入例:現在、栃木県で温泉付きの旅館業を営んでいる。コロナウイルスの影響により客足が減少し、加えて物価高の影響で温泉のボイラーなどに活用する燃料費が急上昇しコストが圧迫されている。そのため、新しい取り組みを行いできるだけ早く新事業を行う必要がある。
※応募申請を検討されている事業計画の概要を記載してください。事業再構築補助金を活用して行う取組の具体的な投資内容(投資総額・発注予定年月・稼働開始予定年月等)を必ず記載してください。
事業再構築補助金 事前着手申請 事業計画の概要
事前着手申請の注釈で上記のような文言がありますので、具体的に記載をする必要があります。そのため、事業計画の作成が完了するまでは変更等が発生する可能性があるため、事前着手申請は行わない方が良いでしょう。投資金額はかなり細かく記載しなければいけないため、具体的に金額等も詰めておきましょう。事前着手申請の書き方としては、事業計画の概要を説明するような形をおすすめします。以下が記入例になります。
記入例:今まで旅館業を行っていたが新たみグランピング事業を展開する。現在の旅行のトレンドはエコツーリズムと呼ばれる現地の生活に根ざし自然とともにサスティナブルな生活をすることとなっている。従来の取り込みとは異なり、自然とのふれあいに重きを置いたサービスを展開する。具体的には、地元の牛肉を使ったバーベキューや天然の魚を宿泊者自身で捕まえてもらい調理するというプランを想定している。また、現地の祭りや地元の人とも交流ができるスペースを作り、地域の生活を体験できるようにする予定である。投資額は60,000,000円となり内訳としては、整地費用、グランピングの設置費用、工事費用、プロモーションや厨房の改装などが主な経費となる。グランピングの稼働は2023年2月を予定している。
新型コロナウイルス感染症の影響の長期化による事業活動への影響とその対応方針について記載してください。
事業再構築補助金 事前着手申請 コロナの影響を受けている事業の概要
事前着手申請のこの欄では、コロナウイルスまたは物価高の影響について具体的に記述をしましょう。事業活動の影響の書き方としては、事業計画で記述しているコロナや物価高の影響と内容はほぼ同一にして言い回しを少し変えましょう。また、書き方として、なぜ事業活動を早く始めなければいけないのかも記載しましょう。以下が記入例です。
記入例:コロナウイルスの長期化への影響で対面を避けるため、旅館業全体が深刻な影響を受けている。県民割などの需要喚起のキャンペーンが始まったとはいえコロナウイルスへの不安は大きくいまだにコロナ前の売り上げには回復していない。また、燃料価格高騰により、ボイラーや電気代などが高騰し利益も併せて減少している。今後はこれらに対して密にならないように幅広いスペースを確保した事業を行い、温泉の設備も新たに交換し燃料効率を上げる。
※事前着手が承認されず、2.の事業計画に沿った投資が遅滞した場合に、どの程度の損失が発生するのかを具体的に記載してください。また、損失金額の算出根拠も併せて記載してください。
事業再構築補助金 事前着手申請 事業開始が遅れた場合に生じ得る影響
事前着手申請の中で本パートが一番重要になります。書き方としては、なぜ事前着手申請を行わなければいけないのかをしっかりと記載しましょう。書き方としては、事業再構築補助金の売上根拠を元に事前着手申請を行わず交付決定がなされるまで事業を開始した場合としなかった場合をそれぞれ比較して記載しましょう。具体的な損失金額の書き方としては、その差が機会損失になりますのでその金額を記載することで要件を満たします。
記入例:グランピングのオープンは2023年2月を予定している。工事は約3ヶ月かかることが想定されている。そのため工事は遅くとも2022年12月に始めなければいけない。もし、交付決定後に事業を開始すると採択までに3ヶ月、交付決定までに3ヶ月かかるため、2022年9月の事業再構築補助金の申請であれば採択は2022年12月、工事開始は早くても2023年3月となる。そのため、交付決定後の事業開始だとオープンは早くても2023年6月になり、事前着手申請を行った時よりもオープンが4ヶ月遅れると想定される。想定される月間売上高は5,000,000円であるため、5,000,000円×4ヶ月=20,000,000円の損失が発生すると考えられる。
第12回公募対応「採択率を上げるポイントがわかる事業再構築補助金事業計画書作成マニュアル」
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・交付申請の方法
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事業再構築補助金で事前着手申請を行う際に覚えておきたいポイントについて解説します。第10、11回公募で一度事前着手申請をしているならすでに把握しているかもしれませんが、再度ポイントを確認しておきましょう。
事業再構築補助金の事前着手申請を行う際の6つのポイント
事業再構築補助金が採択された後に交付申請を行い交付決定がされますが、交付申請を行っている間に事前着手申請をしてしまうと事前着手申請の承認を得たことを示す書類を別途添付しなければならないため、交付申請がやり直しになってしまいます。そのため、交付申請をする前に事前着手申請の承認まで済ませておく必要があります。
事前着手申請を行ってから承認されるまで10日から最大で約2週間かかります。そのため、交付申請の直前で申請を行ってしまうと、その分交付申請ができずに交付決定が遅れる可能性がありますので十分余裕を持って申請を行いましょう。
事前着手申請が補助金事務局によって承認されたとしても、事業再構築補助金が採択されるわけではありません。また、事前着手申請が承認されても、交付決定がされやすいわけでもありません。そのため、事業再構築補助金が不採択になるリスクも検討しながら事業内容を考えていくことをおすすめします。
事業再構築補助金の事業計画に変更がなければ、事前着手申請を再度行う必要はありません。ただし、設備投資の金額や内容そのものに変化があった場合は、事前着手申請を再度行わなければいけません。また、交付決定後に事業計画を変更した場合、再度見積書等の提出が必要であると同時に事前着手申請も再度書類を修正して提出する必要があります。
事前着手申請を行っていても、実績報告などは通常の補助対象経費と同様に行わなければいけません。書類などが足りない場合、実績報告で不備となる可能性が高いため、これらは注意しながら事業を行いましょう。
事前着手申請が承認されたとしても、実績報告が認められず結果的に支払われなくなってしまうケースがあり得ます。具体的には、見積書や請求書などが事業再構築補助金の指定している形通りではない、または支払いが現金で行われているために支払いを確認できないなどのケースが主に挙げられます。これらが発生する理由よしては、事前着手申請をしてしまったことにより、支払い証跡など一部書類が入手できない可能性があります。そのため、事前に書類は確認し、必要であれば事務局に問い合わせをするように心がけましょう。
INU株式会社は、事業再構築補助金に申請する事業者様の支援を行なっています。申請時、事業計画書の書き方が不安、どんな書類が必要なのかわからない、採択されるように申請を行いたい、という事業者様に寄り添い、申請時にサポートします。
もちろん、以前補助金に申請したものの不採択になってしまい、再度チャレンジしたい事業者様も受け付けています。その際、事前着手申請を行いたい事業者様のお手伝いも可能です。
INU株式会社でこれまで支援してきた事業者様の採択率は98%!オンライン対応が可能なので場所を問わずどこの事業者様でも支援することができます。
現在初回の無料相談も受付しています。事業再構築補助金に申請したい事業者様はぜひご連絡ください!
事業再構築補助金の事前着手申請制度について解説してきました。第12回からは、事前着手申請は原則できなくなってしまいました。必ず、補助事業は交付決定後に始めるようにしましょう。
第10回、11回で事前着手申請をしたけれど不採択になり、再度補助金に申請したい方は、ぜひ本記事を参考に事前着手申請を行ってみてください。