中堅・中小成長投資補助金(中堅・中小企業の賃上げに向けた 省力化等の大規模成長投資補助金)なら、最大50億円の補助金交付を受けられる可能性があります。
本補助金の採択を受けるコツは、「審査基準を満たす投資計画を策定できるか」です。公募要領には、策定基準となる指標が記載されています。審査基準を確認し、「審査基準を満たすためはどのような計画が必要か」「なぜその審査基準が設けられているのか」をしっかり分析しましょう。
本記事では、中堅・中小成長投資補助金の概要や審査基準について解説します。
中堅・中小成長投資補助金(中堅・中小企業の賃上げに向けた 省力化等の大規模成長投資補助金)の概要

中堅・中小成長投資補助金(中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金)とは、日本の各地域の経済や雇用を支えている中堅・中小企業を対象にした補助金制度です。
補助金制度のなかでも補助金額の高さが群を抜いており、最大50億円までの補助を受けられます。とはいえ本補助金も他の補助金と同じく「補助事業終了後の後払い」となり、なおかつ合計10億円以上の投資が必要になるため、一定以上の財務状態や企業体力が求められます。すでに一定以上の業績や規模を持つ中堅企業・中小企業向けの制度と言えるでしょう。
中堅・中小成長投資補助金(中堅・中小企業の賃上げに向けた 省力化等の大規模成長投資補助金)の概要
中堅・中小成長投資補助金の目的
中堅・中小成長投資補助金は、「地域雇用を支える中堅・中小企業が人手不足等の喫緊の課題に対応し、成長していくことを目指しておこなう大規模投資の促進」によって、「地方における持続的な賃上げを実現すること」を目的にしています。
予算額は、令和9年度までの国庫債務負担を含む総額3,000億円となっています。
実際に中堅・中小成長投資補助金には「賃上げ要件」が設けられており、補助事業の終了後3年間の補助事業に関わる従業員(非常勤含む)及び役員の1人当たり給与支給総額の年平均上昇率が4.5%以上であることが必要です。この賃上げ要件の達成が、本補助金の交付条件となっています。
中堅・中小成長投資補助金の目的を理解しつつ、10億円以上の投資でどうやって賃上げを達成するかを模索するのが、本補助金の採択を受けるコツと言えるでしょう。
また、賃上げだけに囚われるのではなく、設備投資による生産性向上や事業拡大なども見据えた投資計画の実行が、自社の将来的な成長を後押しするポイントとなります。
中堅・中小成長投資補助金の対象者
中堅・中小成長投資補助金の対象者は、日本国内に本社及び補助事業の実施場所を有する、常時使用する従業員の数が2,000人以下の会社又は個人等です。
また、政策目的に沿った補助事業でかつその補助事業が収益事業に関するものであれば、補助対象者として認められます。企業組合、協業組合、商工組合・連合会、一般社団法人、社会福祉法人などが該当します。
一方、以下のいずれかに該当する者は、大企業とみなして補助対象外となります(みなし大企業)。ここでいう「大企業」とは、常時使用する従業員数が2,000人超の事業者を指します。
- 発行済株式の総数又は出資金額の2分の1以上が同一の大企業(外国法人含む)の所有に属している法人
- 発行済株式の総数又は出資金額の3分の2以上が複数の大企業(外国法人含む)の所有に属している法人
- 大企業(外国法人含む)の役員又は職員を兼ねている者が役員総数の2分の1以上を占めている法人
- 発行済株式の総数又は出資金額の総額が上記に該当する法人の所有に属している法人
- 上記に該当する法人の役員又は職員を兼ねている者が役員総数の全てを占めている法人
また、補助事業の対象者となるためだけに従業員の増減をおこなう企業、暴力団員と関係や公序良俗に反する事業など不適格なところがある企業なども対象外です。
詳細は公募要領をご覧ください。
中堅・中小成長投資補助金の補助金額
中堅・中小成長投資補助金の補助金額は最大50億円で、補助率は1/3以下です。
申請書の中で補助率1/4を適用した事業採択も許容された事業者については、本来の採択基準に満たない場合においても追加的な採択を行う可能性があります。ただし、補助率が1/4となった場合でも、提出された賃上げに係る目標数値を達成することが要件となります。
本補助金は、ほかの補助金と同じく「採択された補助事業で支払われた経費を補助する」という仕組みです。基本的には以下に沿って補助金額が決定します。
- 事務局の採択を受けたらあらためて補助事業全体の支出、収支予算、補助対象経費、補助対象外経費を計算する
- 「補助対象経費×補助率」やそのほかの算出方法に応じて計算した金額を「交付申請」にて申請する
- 補助事業を実施し、発生した支出は一旦自己負担で支払う
- 補助事業終了後に実際に支出した内容や交付申請の内容を基に、確定した補助金額が交付される(令和7年度に実施した補助事業のうち、令和7年度中に支出した補助対象経費の補助金交付時期は、原則、令和8年度となります)
- 補助事業終了後も3事業年度分の合計4回の事業化や賃上げ状況報告をする(目標未達や違反があれば補助金返還になる可能性あり)
本補助金は最低投資額が10億円(税抜き。外注費・専門家経費を除く補助対象経費分)であるため、実際に数億円レベルの補助金を受け取れる可能性が高いです。逆に言えば、補助金が交付されるまで最低でも10億円の支出を自己負担しなければなりません。
対象経費には、補助事業のための事務所や生産施設などの建物関係の建設・増築・改修・中古建物の取得、機械装置の購入・製作・借用、ソフトウェア・情報システムの購入・構築・借用・クラウドサービス利用、外注費、専門家経費などが該当します。ただし、外注費及び専門家経費の合計額は、建物費・機械装置費・ソフトウェア費の合計額未満である必要があります。
中堅・中小成長投資補助金の審査基準

中堅・中小成長投資補助金は、補助事業に関する投資計画書の内容や企業の適格性などをチェックする1次審査(書面審査)と、地域ブロック単位で設置された審査会にて外部有識者によるプレゼンテーションや質疑応答などをおこなう2次審査(プレゼンテーション審査)があります。
それらの審査基準は、公募要領にて公表されています。本補助金の採択を受けるには、審査基準を理解し審査基準に沿った投資計画の策定とプレゼンテーションが重要になるでしょう。
以下では、中堅・中小成長投資補助金の審査基準について解説します。
経営力
経営力としては、以下の審査基準が設けられています。
- 社会課題や顧客ニーズの変化等のメガトレンドを踏まえ、5~10年後の社会に価値提供する自社のありたい姿(長期成長ビジョン)や賃上げ予定の方向性が具体化されているか。その中において、高い売上高成長率及び売上高増加額が示されているか
- 市場・顧客動向を始めとした外部環境と、自社経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)等にかかる強み・弱みの内部環境を分析した上で、今後3~5年程度の事業戦略が論理的に構築され、その中で、補助事業が効果的に組み込まれているか。会社全体の売上高に対する補助事業の売上高は高い水準か
- 会社全体・補助事業双方の成果目標等が示され、その達成に向けて効率的に管理する体制(取締役によるガバナンス機能やステークホルダーへの情報発信等)が構築されているか
- 補助事業を通じて持続的な成長や長期成長ビジョンの実現に繋がるような適切な資金計画が検討されているか
申請時における商品・サービスや事業の方向性のニーズを的確に捉えることに加え、補助事業によって企業の利益をもたらせる経営能力が確認されます。
先進性・成長性
先進性・成長性としては、以下の審査基準が設けられています。
- ターゲットとするマーケットにおける競合他社の状況を把握し、競合他社の製品・サービスを分析した上で、継続的に自社の優位性が確保できる差別化された計画となっているか(生産工程の抜本的改革や最新設備を導入した物流センター等を通じた高い付加価値・独自性の創出、サプライチェーンや商流の上流・下流部分を自社で構築するなど他社が模倣困難なビジネスモデルの構築、ニッチ分野における独自性の高い製品・サービス開発、厳格な品質管理、大学等との産学連携などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有している等)
- 補助事業により、労働生産性の抜本的な向上が図られ、人手不足の状況が改善される取組となっているか(労働生産性の伸び率及び付加価値の増加額が十分に高い取組か)
- 補助事業により提供される製品・サービス等の売上高の持続的な成長が見込まれるか。さらに、その成長率は、補助事業の関連する市場規模全体の伸びを上回るものであるか
競合他社にはない独自の取組であること、実際に人手不足解消につながる効果的な投資であることが求められます。
地域への波及効果
地域への波及効果としては、以下の審査基準が設けられています。
- 補助事業により、従業員1人あたり給与支給総額、雇用が申請時点と比べて増加している等、地域への波及効果が見込まれる取組か。特に、投資により創出された利益を賃金として従業員へ還元する賃上げの計画が具体的かつ妥当であり、給与支給総額の増加額が大きく、賃上げ要件の水準を大幅に上回るものとなっているか
- リーダーシップの発揮により、参加者や地域企業への波及効果、連携による相乗効果が見込まれるか(主にコンソーシアム形式の場合を想定)
上記に加えて、地域未来牽引企業やパートナーシップ構築宣言登録企業に対する加点措置もあります。
本補助金において重要なキーワードとなる「賃上げ」を満たすため、補助事業の利益で実際に従業員の給与が上がる取組であるかを確認されます。
そして大切なのは、決められた賃上げ要件を達成するだけではなく、「審査基準を大きく上回る効果」「自社だけでなく地域全体に波及する効果」があるほど、高い評価を得やすいという点です。
大規模投資・費用対効果
大規模投資・費用対効果としては、以下の審査基準が設けられています。
- 企業の収益規模に応じたリスクをとった大規模成長投資となっているか(事業者全体の売上高における設備投資額の比率が高い水準であるか)
- 補助事業として費用対効果が高いか(補助金の交付額に対する付加価値の増加額等)。その際、現在の自社の人材、技術・ノウハウ等の強みを活用することや既存事業とのシナジー効果が期待されること等により、効果的な取組となっているか
- 従前よりも一段上の成長・賃上げを目指す等、企業の行動変容が示されているか(補助金による投資額や賃上げ率の増加等)
ただ投資して一定の効果を得るだけではなく、投資金額に対する効果の大きさも重要視されます。
たとえば補助事業で10億円の投資で100億円分の利益が出ると仮定したとき、「売上100億円の企業の投資」よりも、「売上30億円の企業の投資」のほうが評価されやすいというイメージです。
実現可能性
実現可能性としては、以下の審査基準が設けられています。
- 本事業の目的に沿った事業実施のための体制や最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか(ローカルベンチマークの総合得点)
- 本事業の実施に向けて、中長期での補助事業の課題を検証できているか。また、事業化に至るまでの遂行方法、スケジュールや課題の解決方法が明確かつ妥当か
- 補助事業によって提供される製品・サービスのユーザー、マーケット及びその規模が明確か。市場ニーズの有無を検証できているか
上記のほかにも、「金融機関による確認書」の提出や確認書を発行した金融機関の担当者等がプレゼンテーション審査に同席した場合に加点措置もあります。
「事前にしっかりと分析・検証した計画か」「実現できると客観的に判断できる計画か」「スケジュールには問題はないか」などが見られます。
中堅・中小成長投資補助金の採択率

中堅・中小成長投資補助金のこれまでの採択率は次の通りです。
| 公募 | 有効申請件数 | 1次審査通過件数 | 採択件数 | 採択率 |
| 第1回公募 | 736件 | 254件(約34.5%) | 109件 | 約14.8% |
| 第2回公募 | 605件 | 218件(約36.0%) | 55件 | 約9.1% |
| 第3回公募 | 229件 | 177件(約77.3%) | 116件 | 約50.7% |
1次公募の総補助金額の平均投資予定額は約54億、平均目標賃上げ率の中央値は4.3%です。追加分を含めた2次公募の平均投資予定額は約44億円、平均目標賃上げ率の中央値は5.4%です。
採択率を見ても、採択を受けるハードルが高めの補助金制度であるとわかります。「最低投資額10億円」という条件を満たす企業は少なくなるうえに、決められた予算内で高額の補助金の交付を申請者の間で争うことになるからです。
また採択結果を見ると、「40億円以上の投資をしても事業を問題なく継続できる体力」や「申請者全体の平均よりも高い売上高、賃上げ率、投資割合などが見込める補助事業」などが採択されている傾向にありました。
中堅・中小成長投資補助金のこれまでの採択事例
中堅・中小成長投資補助金の公式サイトでは、これまでの採択事例が公表されています。いくつかピックアップして紹介します。
| 株式会社AKシステム | 新工場設立と既存工場機能強化による半導体関連事業成長への挑戦 |
| 高知通運株式会社 | 高知県の物流の未来を担う、ハザードエリア外に立地・共同配送可能・モーダルシフト促進設備を有したDX型複合施設の構築 |
| テラル株式会社 | 自動倉庫システムの構築による顧客特化型ソリューションの提供および研究開発力の強化 |
| 株式会社ジェーイーエル | 株式会社ジェーイーエル尾道工場新築事業 |
| 矢田工業株式会社 | 西日本の生産拠点を整備し国内全域への供給力を強化する事業 |
採択事例でよく見られるのは、「拠点・工場そのものを新築する」「大規模な生産ラインを導入する」といった、非常に大掛かりな投資計画です。審査基準のなかにあった「大規模かつ費用対効果が高い投資」が選ばれていると推察されます。
また、採択事例は「既存の製品・サービスを活かしたオリジナリティが高いもの」「具体的な目標を掲げているもの」などが多く見られた印象です。
| ヤマダイ株式会社 | 独自製法ノンフライカップ麺の新展開に向けた大規模投資 |
| 株式会社福砂屋商事 | 東京南町田カステラ新工場の建設 |
| 株式会社創味食品 | 日本の「食」の美味しさの引上げと賃上げを実現する高い生産性を誇る調味料製造拠点(関東工場新設事業) |
上記のような、食品に関する補助事業もいくつか採択されています。特定の企業が有利というわけではなく、さまざまな企業が採択を受けていました。とはいえ、採択企業の多くは製造関係や物流関係など規模を広げやすいところが多く、個人レベルの飲食店、サービス業など、大規模な機械設備への投資とは相性がよくない事業はほぼ見られませんでした。
全体的な傾向としては、東京や大阪といった都市部以外の都道府県や市区町村が選ばれている印象です。「地域の雇用を支える」といった目的に沿った採択傾向にあると推察されます。
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まとめ
中堅・中小成長投資補助金の採択を受けるには、審査基準を理解し、審査基準をクリアする投資計画の策定が必要不可欠です。審査基準は公募要領にて確認できるので、何度も目を通して投資計画に落とし込めるようにしましょう。
また、投資計画は「基準通りにクリアする」ではなく、「採択者全員の平均を上回る効果を得る」を目指して策定することが大切です。準備期間を十分に確保したうえで、自社の独自性を活かした大規模かつチャレンジングな投資計画を準備しましょう。




