【2024.3】ものづくり補助金の受給には賃上げが必須!賃上げに関する要件や加点を徹底解説!
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)を受給するには、一定以上の賃上げが求められます。「賃上げって具体的に何をすればよいのかわからない」という方もいるのではないでしょうか。
本記事では、ものづくり補助金の賃上げの概要や賃上げによる加点について解説します。
- ものづくり補助金の賃上げ要件が分かる
- 要件未達の場合の返還義務とその詳細が分かる
- 賃上げに関する注意点が分かる
ものづくり補助金とは?
ものづくり補助金とは、中小企業等経営強化法に定められた中小企業や小規模事業者が対象となる国の補助金制度です。今後行われるさまざまな制度変更(インボイス制度や被用者保険の適用拡大)に対応する目的で、生産性の工場が見込まれる一定の事業の実施に必要な設備投資等を金銭的に支援します。
一定の事業には、革新的サービス開発や試作品の開発、生産プロセスの改善などが該当します。企業はそれらの事業によって企業の生産性を向上させつつ、従業員の賃上げを一定以上達成することがものづくり補助金の交付を受ける条件です。
ものづくり補助金の交付対象事業者になるには、事前に事業内容や必要経費、賃上げ要件について詳細を記載した事業計画書を作成し、事務局の審査を受けて採択される必要があります。採択を受ける事業計画書とするには、事業内容や数値の根拠を論理的かつ具体的に示さなければなりません。事業計画書に必要な要素の例は次の通りです。
事業計画書に記載すること
- どのような目的で、どのような事業を行うのか
- なぜ事業の遂行にその設備投資や支出が必要になるのか
- 申請する経費金額(補助金額)の根拠は
- その事業を遂行することで、なぜ生産性の向上につながるのか
- 必要な人員、経費金額、事業日程などは決まっているのか
- 補助事業を完了できる根拠や実績を示せるか
- ものづくり補助金の基本要件(最低限達成すべき目標)は達成できるのか
特に、ものづくり補助金の基本要件となる「賃上げ要件」や「付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)」の増加見込みは、必ず確かな根拠を事業計画書上で示しましょう。基本要件がクリアできなければ、いくら優れた事業計画であっても採択を受けられません。
ものづくり補助金に関する事業計画書の書き方や記載内容の詳しい内容はこちら
基本要件のみを満たした事業計画書ならものづくり補助金の「通常枠」に応募できます。通常枠の場合、補助事業終了後に100〜1,250万円の補助金を受け取れます(16次公募時点)。従業員数ごとの補助金額は以下の通りです。
従業員数・事業者区分 | 金額 | |
補助金額 | 5人以下 | 100万~750万円 |
6~20人以下 | 100万~1,000万円 | |
21人以上 | 100万~1,250万円 | |
補助率 | 中小企業等 | 1/2 |
小規模企業者・小規模事業者・再生事業者 | 2/3 |
ただし、現在募集している17次公募のものづくり補助金は省力化枠のみの募集です。17次公募の補助金額は以下の通りです。
従業員規模 | 補助上限額 | 補助率 |
5人以下 | 750万円(1,000万円) | 1/2 小規模・再生 2/3 ※補助金額1,500万円までは1/2も しくは2/3、1,500万円を超える部 分は1/3 |
6~20人 | 1,500万円(2,000万円) | |
21~50人 | 3,000万円(4,000万円) | |
51~99人 | 5,000万円(6,500万円) | |
100人以上 | 8,000万円(1億円) |
※( )内は大幅賃上げに係る補助上限額引き上げの特例を適用した場合
17次公募の省力化枠については以下の記事で詳しく説明しています。
省力化枠の詳しい解説はこちら
賃上げに関する要件
賃上げに関する要件とは、ものづくり補助金の基本要件として達成すべき、給与支給総額や事業所内最低賃金の基準です。ここからは「賃上げって言われても、具体的にどれくらい上げればよいのかわからない」という方に向けて、ものづくり補助金の賃上げに関する要件の基本を解説します。
賃上げに関する要件
給与支給総額を年平均1.5%増加させる
給与支給総額を年平均1.5%増加させるのが、ものづくり補助金の賃上げ要件の1つです。給与総支給額とは、全従業員(非常勤含む)・役員に支払う次の経費の合計が該当します。
- 毎月の給料や賃金
- 賞与(ボーナス)や役員報酬
- 残業手当
- 時差手当
- 休日出勤手当
- 深夜手当
- 職務手当
- 技能手当
- 役職手当
- 地域手当
- 家族(扶養手当)
- 住宅手当
- 休業手当
- 食事手当
- 皆勤手当 など
しかし、同じく従業員に支払う経費であっても、人件費に該当するものは給与総支給額に含まれません。具体的には、次のものが人件費に当てはまります。
- 退職金や退職手当
- 福利厚生費
- 法定福利費
- 派遣労働者や短時間労働者の給与を外注費で処理した場合の費用
- その他売上原価に含まれる労務費や一般管理費に含まれる給与や退職金など
人件費が算出できない場合は、平均給与に従業員数を掛けて算出します。
では、「給与支給総額を年平均1.5%増加させる」とは具体的にどういうことでしょうか。これは「基本となる給与支給総額から事業計画期間中(3~5年)に毎年1.5%以上上げること」を意味します。事業場全体の給与支給総額が4,000万円だと、毎年60万円ずつ増加させると達成になります。
基準 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | |
給与支給総額 | 4,000万円 | 4,060万円 | 4,120万円 | 4,180万円 | 4,240万円 | 4,300万円 |
伸び率 | 1.5% | 3% | 4.5% | 6% | 7.5% |
事業計画期間が5年間だと、最終的には7.5%以上給与支給総額の年率が上昇すれば問題ありません。年平均なので、1年目2%の4,080万円、2年目1%の4,120万円でも達成できます。
なお、被用者保険の適用拡大の対象になる中小企業が制度改革に先立って任意適用に取り組む場合は、年率平均増加幅が1%以上になります。
事業所内最低賃金を地域別最低賃金+30円の水準にする
事業場内最低賃金を地域別最低賃金の+ 30%の水準にすることも、ものづくり補助金の賃上げ要件の1つです。事業場内最低賃金と、地域別最低賃金の意味は次の通りです。
事業場内最低賃金 | ものづくり補助金を申請した際に指定した補助事業の実施場所において、働いている従業員のうち時給換算がもっとも低い金額の者の賃金(日給や月給でも1日の所定労働時間を使って時給を割り出す) |
地域別最低賃金 | 各都道府県に適用されている最低賃金のことで、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」に記載 |
2023年10月時点だと、東京都なら地域別最低賃金1,113円の+30円で時給1,143円以上、広島県なら地域別最低賃金970円の+30円で時給1,000円以上が、賃上げ要件の水準になります。
給与支給総額等の計算方法
給与支給総額等の計算方法について、法人と個人事業主の場合の両方を確認していきます。
法人の場合は、「従業員や役員に支払う給料や賞与+各種手当」で計算します。損益計算書(製造原価報告書・販売管理費明細)の数値を使いましょう。もし決算期間が1年に満たないときは、12か月分に直して計算します。例えば決算の期間が8か月なら、給与支給総額を1.5倍にしましょう。
個人事業主の場合は、「給料賃金+専従者給与+その他給与所得科目+青色申告特別控除前の所得金額」で計算します。確定申告書や青色申告決算書などの数値を使ってください。
賃上げの期限
賃上げの期限は、ものづくり補助金を申請したときに設定した補助事業計画の期間内です。3年なら3年間、5年なら5年間賃上げ要件を満たし続ける必要があります。
賃上げ誓約書の提出も必要
ものづくり補助金の申請時には、賃上げ要件の達成を事務局へ宣言する賃上げ誓約書の提出が必要です。ただし、14次公募以降は書類を別途で賃上げ誓約書を準備する必要がなくなり、電子申請システム上にて作成することで事足りるようになりました。押印も必要ありません。
賃上げによって回復型賃上げ・雇用拡大枠にも申請可能
ものづくり補助金には、基本要件に加えて追加要件を満たす事業計画書を提出することで、通常枠以外の枠にも申請できます。回復型賃上げ・雇用拡大枠はその1つです(16次公募時点)。
回復型賃上げ・雇用拡大枠とは、業況が厳しい中でも従業員の賃上げや雇用拡大に取り組んでいる事業者が対象のものづくり補助金の一種です。
賃上げによって回復型賃上げ・雇用拡大枠にも申請可能
追加要件
回復型賃上げ・雇用拡大枠の追加要件は次の通りです。
- 前年度の事業年度の課税所得がゼロ以下であること
- 常時使用する従業員がいること
- 補助事業を完了した事業年度の翌年度の3月末時点において、その時点での給与支給総額の増加率が1.5%、事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円の水準の増加目標を達成すること
課税所得の要件や、短い期間での給与支給総額・事業場内最低賃金の要件が設定されています。
補助額・補助率
回復型賃上げ・雇用拡大枠の補助額は、通常枠と同じです。しかし再生事業者以外でも、補助率の面で優遇措置が取られています。
従業員数・事業者区分 | 金額 | |
補助金額 | 5人以下 | 100万~750万円 |
6~20人以下 | 100万~1,000万円 | |
21人以上 | 100万~1,250万円 | |
補助率 | 全事業者 | 2/3 |
大幅賃上げに係る特例について
ものづくり補助金は、基本要件・追加要件に加えてより高い賃上げ目標を達成すると、「大幅賃上げにかかる特例(大幅賃上げにかかる補助上限額引上の特例)」を適用できます。賃上げ効果が見込める事業者は、ぜひ特例を利用してみてください。
ただし、前述した回復型賃上げ・雇用拡大枠に申請した事業者、各申請枠の補助金額の上限に達しない事業者、再生事業者、常勤従業員がいない事業者は対象外です。
大幅賃上げに係る特例について
追加要件
大幅賃上げにかかる特例の追加要件は、次の2つの条件達成と、達成に向けた具体的かつ詳細な事業計画を提出することです。
- 事業計画期間に「給与支給総額を年率平均1.5%以上増加」に加えて「年率平均4.5%以上増加(合計で1.5+4.5=6%)」を達成すること
- 事業計画期間に「地域別最低賃金+30円の水準にすること」に加えて「事業場内最低賃金を毎年年額+45円以上増額すること」
補助額・補助率
大幅賃上げにかかる特例を適用すると、各申請枠の上限額が従業員数に応じて引き上げられます。補助率に変更はありません。
補助金額 | 5人以下 | 各申請枠の上限から最大100万円 |
6~20人以下 | 各申請枠の上限から最大250万円 | |
21人以上 | 各申請枠の上限から最大1,000万円 |
賃上げを達成できなかった場合
補助事業を遂行してものづくり補助金を受け取った後、基本要件や追加要件の賃上げを達成できなかった場合は、補助金の一部または全部の返還が求められる可能性があります。16次公募時点での、賃上げ未達のペナルティを見ていきましょう。
賃上げを達成できなかった場合
補助金の一部または全部の返還が求められる
給与支給総額の増加目標が未達の場合、導入設備等の簿価または時価のいずれか低いほうの額のうち補助金額に対応する分(残存簿価等×補助金額÷実際の購入金額)の返還が求められます。
事業場内最低賃金の増加目標が未達の場合は、補助金額を事業計画年数で除した額の返還が求められます。
また、回復型賃上げ・雇用拡大枠は増加目標の追加要件が未達だと、補助金交付額の全額返還です。大幅賃上げにかかる特例が未達の場合も、補助金交付金額から各申請枠の従業員規模ごとの補助上限額との差分といった、未達内容に応じた補助金返還が求められます。
補助金を返還しなくてよい場合も
賃上げ要件が未達であっても、次に該当する場合はものづくり補助金の返還をしなくてよい場合があります。
- 天災など事業者の責めに負わない理由がある
- 給与支給総額の年率増加率平均が「付加価値額の年率増加率平均÷2」を超えている場合(給与支給総額の要件未達)
- 付加価値額増加率が年率平均1.5%に達しない場合(事業場内最低賃金の要件未達)
- 再生事業者である
また上記に加えて、給与支給総額を用いることが適切ではないと解される特別な事情があると認められたときは、給与支給総額増加率に代えて1人あたりの賃金の増加率を適用できるケースがあります。
不正行為が発覚すればより重いペナルティを科せられる
補助事業を適切に遂行した上での目標未達ではなく、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律等に違反する不正行為が発覚した場合は、補助金の交付決定取消や加算金を上乗せした返還になります。また、不正受給の事業者として不正内容が公表されます。
不正行為とは、補助事業に関する虚偽申告や、目的外への補助金利用などです。故意・過失問わずペナルティが課せられます。
【関連記事】
ものづくり補助金の不正受給にあたるのはどんな行為?罰則等までわかりやすく解説
賃上げに関する加点
基本要件や追加要件達成に加えて、要件を大きく上回る賃上げを実行する事業者には、事務局による事業計画書審査時に加点を受けられます。採択を受けやすくなるので、ものづくり補助金の交付を確実にしたい事業者は、賃上げに関する加点を見越した事業計画書を作成するとよいでしょう。
賃上げに関する加点
要件を上回る賃上げは加点要素になる
賃上げ加点の要件は、以下2つのいずれかを満たすことです。
- 「給与支給総額が年率平均+2%以上」と「事業場内最低賃金が地域別最低賃金+60円以上」
- 「給与支給総額が年率平均+3%以上」と「事業場内最低賃金が地域別最低賃金+90円以上」
あくまで加点項目であるため、必ずしも達成する必要はありません。しかし、加点項目を満たした事業者が採択を受けやすくなるのも事実です。ものづくり補助金総合サイト「データポータル」によると、加点項目0の採択率は34.4%、1つでも満たすと43%に上がります。4つを満たした事業者の採択率は68.3%にまで増加します(16次公募時点)。
賃上げ加点を満たすのが難しいときは、成長性加点、政策加点、災害等加点、女性活躍等の推進の取り組み加点などを狙うとよいでしょう。
賃上げ加点の申請は補助金申請時
賃上げ加点は、補助金申請時にあらかじめ申請しておく必要があります。「思ったより事業がうまくいったら、後から申請しよう」というのは認められていません。事業計画書策定時には、賃上げ加点を見越した事業計画を立てるようにしましょう。
賃上げを行う際のポイント
最後に、補助事業における賃上げを行う際のポイントをまとめました。
賃上げを行う際のポイント
基本給以外の賃上げもOK
残業代や深夜手当、時差手当などの各種手当や賞与は、基本給を算定基準とする事業者も多いです。もし賃上げ要件を満たすために基本給を上げると、手当や賞与も実質的な賃上げとなり、事業者側の負担が想像以上に大きくなります。
そこで基本給ではなく、手当や賞与の金額や支払頻度を単体で上げることで、給与支給総額を増やす対策も取れます。基本給の昇給とのバランスを見ながら、適切な賃上げを実行してください。
役員報酬の賃上げも対象
役員報酬も給与支給総額に含まれることから、役員報酬を上げて賃上げ要件を満たす方法もあります。とはいえ従業員との兼ね合いや現状の役員報酬の金額によっては、従業員との関係性に問題が生じる可能性があります。従業員と話し合いながら、慎重に決定しましょう。
必ずしも全従業員の賃上げを行う必要はない
給与支給総額はあくまで全従業員の合計値で判断するものであり、全従業員の賃上げを必ずしも行う必要はありません。極端な例なら従業員30人のうち、より優秀な従業員10人の賃上げ10%を行っても目標は達成できます。
そのため、「資格保有者への資格手当」「優秀な成績を収めた従業員の賃上げ」など、特定の従業員の賃上げを実施する方法を取ることもできます。従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
現在従業員を雇用していない場合も申請可能
現在従業員を1人も雇用していない事業者でも、ものづくり補助金への申請は可能です。ただし、賃上げ加点の場合は従業員を雇用していないと認められないケースがあるので、事前に事務局へ確認しておくことをおすすめします。また前述した通り、従業員を雇用していない場合は大幅賃上げの特例は受けられません。
株式会社補助金プラスではものづくり補助金申請支援を行っています
株式会社補助金プラスでは、ものづくり補助金を活用したいという事業者様向けに申請支援、コンサルティングを行っています。ものづくり補助金に申請したいけど、何をしたら良いのかわからないという事業者様に向けて、成功報酬10%の金額で支援を行います。お客様の強みを活かした事業計画書の策定など、申請に向けてしっかりサポートします。
システム関連にも強いので、設備投資だけではなくシステム導入、システム開発もサポート可能です。これまでに支援した事業者様の採択率は90%と高水準です。
ものづくり補助金に申請できるのかわからない事業者様でも、まずは無料相談も受け付けているのでぜひお気軽にご連絡ください。
まとめ
ものづくり補助金の基本要件には、給与支給総額や事業場内最低賃金の一定以上増加の達成が賃上げ要件として設定されています。より条件が厳しい賃上げ要件をクリアすると、回復型賃上げ・雇用拡大枠や大幅賃上げにかかる特例の適用も可能です。賃上げ加点を達成できれば、採択される確率を上げられます。
ものづくり補助金と賃上げは密接な関係にあるので、事業計画書を策定する際は賃上げについてしっかりと調査・分析・検討することをおすすめします。